とっく~ブログ 

読んだ本の紹介をメインに、小説に出てきた聖地巡礼や、写真など

「熱源」川越宗一(文藝春秋)

第162回直木賞受賞作品、2020年本屋大賞ノミネート作品です。

弱肉強食の帝国主義の時代にロシアと日本という2つの大国に飲み込まれつつあるポーランドアイヌの人々の現実と抵抗と誇りの物語。
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アイヌポーランドの人々が大国から強いられた過酷な歴史が詳しく描かれ、不本意ながらもそれに従いつつ、自分達はどうすべきか、どう生きるべきかを必死に模索する姿は感動的でした。

アイヌ民族に対する日本の同化政策ポーランドの人々の過酷な歴史など、全く知らなかったことも多かったです。

主人公でアイヌのヤヨマネクフや、ポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキはじめ大隈重信などの実在の人物も多く登場し事実に基づいた話なのでとても勉強になりました。

日露戦争樺太での戦いの描写は、司馬遼太郎の「坂の上の雲」のサイドストーリーのようで興味深かった。

テーマは重く、一見暗くて重苦しいストーリーの小説のように思えますが、主人公の親友のシシラトカやその親戚の少女イペカラは明るくて、ちょっとおバカでとんちんかんなキャラクターとして所々でクスリと笑わせてくれるので、重苦しい雰囲気を和らげてくれてくれました。

強いことが正義、負けた方が悪い。弱いものはやがて滅びる運命にあるのだ。
そんな時代に必死に抵抗したアイヌポーランドの人々。
「強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補いあって。生まれたのだから、生きていいはずだ」
ヤヨマネクフが大隈重信に語った言葉が印象的でした。

競争に勝ったものだけが何もかも手に入れられる現代社会にも当てはめる事ができるいい言葉だと思いました。