金沢に転校してきた普通の男子高校生が、ひょんな事からアルバイトを始めた古道具屋は自分以外の従業員が全員妖怪だった。
普通の高校生があやかし達とふれあうことでまき起こるドタバタを面白おかしく、そして爽やかに描く青春ファンタジーです。
主人公の高校生葛城汀一は両親の海外転勤をきっかけに祖父母が住む金沢にやって来た。
初日の散歩中に見つけた古道具屋の前に置いてあった壺をうっかり割ってしまい、なんとか許してもらうがちょうどアルバイトを募集していたこともあってその店で働くことになった。
出勤初日になんとなくさわった草刈り鎌に襲われた汀一は、同じ従業員の濡神時雨に助けられ、この店が扱っている物は妖怪になってしまった、または妖怪が使っていた妖具で、時雨や他の従業員もみんな妖怪だと知らされる。
初めは驚く汀一だが、同じ高校に通う時雨や可愛い女子高生の姿をした妖怪の亜香里とドタバタに巻き込まれ、色んな妖怪に出会いながらも次第に打ち解けて絆を深めていく。
若い人向けで読みやすい文庫本です。
この作品の魅力は大きく三つあると感じました。
1,古都金沢の情景
2,新たな妖怪のイメージ
3,古道具と妖具と本来の日本人の心
1,古都金沢の情景
石川県の県庁所在地である金沢市は、人口50万人にも満たない地方都市ですが、江戸時代には加賀百万石の城下町として栄え、彼の新井白石からは天下の書庫と言われた程の文化都市でした。
太平洋戦争の空襲も免れて、今でも城下町の町並みがしっかり残っていて、茶屋街などには昔ながらの建物がたくさん見られ、多くの観光客が訪れています。
作品中には兼六園や金沢城公園、東茶屋街といった定番の観光地をはじめ、くらがり坂やつちのこ坂といったコアな地名も登場し古い町並みを表現して妖怪が出てきそうな雰囲気を演出しています。
2,新たな妖怪のイメージ
妖怪のイメージと言えばゲゲゲの鬼太郎の世界という人が多いのではないでしょうか?
あのアニメの主題歌の歌詞のように人間の世界とは離れた森の中に住んでいて夜に活動して墓場で運動会をしている。そして死なない。
でもこの小説に登場する妖怪たちは人間の世界に溶け込んで暮らしています。
学校に通ったり古道具屋やカフェを営んでそこで従業員として働いています。そして歳もとります。
人間に害を為す危険な妖怪たちははるか昔にあらかた退治されてしまっていて今は安全な妖怪がほとんどなのです。
また、一つの章の最後にはその妖怪が登場する民話や伝説が原文で紹介されていて面白く、知的好奇心を刺激してくれます。
そういう設定がユニークで新鮮に感じました。そんな世界なので妖怪が起こす騒動もかわいいものばかりで、そういった事件がこの作品の魅力となっています。
3,古道具と妖具と本来の日本人の心
この作品に登場する妖怪は古道具屋にいるので、人間が使っていた古い道具が妖怪に変化したものが多いです。
鎌や傘に爪楊枝、提灯、瀬戸物といった人間が普通に使っていた道具が妖怪となり人間に化けて暮らしているのです。
古来より日本人は物には魂が宿るとして道具を大切に扱ってきました。
自分を省みてみるに、まだ使える物でも古くなれば何の躊躇いもなく簡単に物を捨てていました。
家電や車もぞんざいに扱ってよく故障させています。これからはそういうところを見直して、まるで人間と同じように接して大切にすれば、道具達も応えてくれるかもしれない。
大量生産大量消費が当たり前の現代において改めて見つめ直したいですね。
この小説は日本人が本来持っていた大切なことを思い出させてくれる作品でした🎵