とっく~ブログ 

読んだ本の紹介をメインに、小説に出てきた聖地巡礼や、写真など

「始まりの木」夏川草介(小学館) 1600円+税

もう10年以上前ですが、夏川草介さんの「神様のカルテ」を読んで共感したのを覚えています。

もう細かいことは忘れましたが、夏目漱石を愛読する主人公の医師が患者の死に立ち会ったり過酷な労働環境に悩みながらもプロのカメラマンである妻と共に成長していく心暖まるストーリーでした。

その後映画化されて劇場に観に行ったのを覚えています。

「始まりの木」はそれ以来久しぶりに読んだ夏川草介さんの作品でした。

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この大樹を描いた緑を貴重とした美しい表紙の絵に惹かれて思わず手にとってしまいました。

偏屈な性格が災いして敵が多くなかなか教授に昇格でず、昔の事故のせいで足が不自由な民俗学者と、将来の進路に不安を抱きつつ、民俗学の魅力にはまりつつある可愛い女子大学院生の二人が主人公です。

神仏を敬う心を失い人や自然を慈しむ心を忘れ、金を稼ぐことが正しい事だとなんでもかんでも金銭ずくで計算して、ものの価値をひっくり返してしまった我々日本人は何処へ向かうのか。

その答えを探して二人は日本各地を旅します。

この作品のヒロイン藤崎千佳は、青森県に始まり長野県、京都市高知県そして東京などを旅して各地に残る信仰とそれを支える人々との出会いから、感じることの大切さを学びます。

「風の流れ、小鳥の囀りなど自然の現象を通じて感じることができると、人間がいかに小さくて無力な存在かわかってくる。だから昔の日本人ってのは、謙虚で、我慢強くて、美しいと言われていたんだ」

大学の近所の寺の住職である雲照が千佳に語った言葉はすごく心に響きました。

そして「巨木や巨岩、巨山信仰は自らを世界の一部に過ぎないと考えてきた日本人の感覚は、まだ完全に消え去ったわけではない。今もそこかしこに確かに息づいていて、人の心を支えている」

「だからこそ、この国は美しいと思うのだよ」

この偏屈な民俗学者、古屋神寺朗の言葉にグッときました。

少子高齢化による人口の減少で経済が縮小に向かいつつある日本。まさに時代の過渡期に生きる我々はどこに向かうのか、一旦立ち止まって考えるべきなのか、それともこのまま突っ走るべきなのか。

この作品の主人公たちと共に考えていきたい思いました。
是非続巻が出ることを希望します。