とっく~ブログ 

読んだ本の紹介をメインに、小説に出てきた聖地巡礼や、写真など

「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ(中央公論新社)1600円+税

2021年本屋大賞ノミネート作品です。

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児童虐待やDV、性的マイノリティーといった重たくてなかなか取りあげづらいテーマをあつかった作品です。

52ヘルツのクジラとは世界で一番孤独だと言われているクジラ。その声は広大な海で確かに響いているのに、受け止める仲間はどこにもいない。

誰にも届かない歌声をあげ続けているクジラは存在こそ発見されているけれど、実際の姿は今も確認されていないという。

他の仲間と周波数が違うため、仲間と出会うことも出来ない。たとえ群れがすぐ近くにいたとしてもすぐ触れあえる位置にいても、気がつかずにすれ違ってしまう。

本当はたくさんの仲間がいるのに何も届かない。何も届けられない。それはどれだけ孤独だろう…。

主人公の三島貴瑚(26歳)は子供の頃から実の母親と義父から言葉や暴力、食事を与えられないなどの虐待を受け、成人してからも就職もさせてもらえず病に倒れた義父の介護をたった一人でやらされるという搾取を受けていました。

そんな貴瑚を救いだしてくれた人たちとも悲劇的な結末を迎え、何もかもが嫌になって逃げるように引っ越してきた大分県のある田舎町で彼女は一人の少年と出会います。

その少年はしゃべることが出来ず、母親からムシと呼ばれ酷い虐待を受け同居する祖父からは無視されていました。

52ヘルツのクジラたちである二人は声を聴いてくれる仲間の群れを見つけられるのか、愛を注ぎ注がれるようなたった一人の魂の番(つがい)に出会うことが出来るのか_。


子供の頃の貴瑚が母親や義父から虐待を受ける描写やたった一人で義父の介護を強いられるシーンは読んでいて胸くそが悪くなりました。

また、両親からの搾取という絶望的な状況から救いだされ、やっと平穏な生活をおくり始めたのに再び起こった悲劇に胸が締め付けられました。

その一方で、絶望的な状況から貴瑚を救いだしたアンさんや、疲れはて大分に行ってしまった貴瑚のために必死に動く親友の美晴には感動しました。

また、次第に元気を取り戻し、今度は少年を救うために奮闘する貴瑚の姿など、心が温まり、感動的で泣けるシーンもたくさんありました❗

人は独りでは生きていけず、誰もが自分の声を聴いてくれる仲間や魂の番との出会いを求めているけど、それは容易な事ではないと思いました。

一生出会えずに死んでいく人も多いのではないか。50歳にして独身独り暮らしの自分も、声を聴いてくれる仲間や魂の番といえる人を探し出会うことを人生の課題の一つにしたいと思いました。