とっく~ブログ 

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「小説8050」 林真理子 新潮社

8050問題(はちまるごーまるもんだい)とは、年金暮らしの80代の高齢の親が、50代の引きこもりの子供の面倒を見なければいけないということです。

 

若いころから何十年も引きこもり、社会で生きていく力を身に着けられないまま中高年になってしまった人が、高齢の親が亡くなった後にどうやって生きていくのか、これからどんどん顕在化していく深刻な問題です。

 

日本全国に100万人いるといわれる引きこもりのうち61パーセントが中高年という衝撃の実態があるそうです。

 

昔は、引きこもりとは若者の問題というイメージがありましたが、そのまま引きこもていた人たちが立ち直れずに年齢を重ねて、今ではもう中高年の問題なのです。

 

団塊ジュニア世代の自分にとっては同世代の問題であり、以前から関心のあるテーマだったので書店でこの作品を見かけて時には迷わず購入しました。

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小説8050

とはいえ、いざ読んでみるとこの作品の登場人物は50代の夫婦と中学時代から引きこもっている20歳の息子ということで、8050問題の当事者の話ではありませんでしたので、少しがっかりはしました。

 

それでも。作中には2019年5月28日に神奈川県川崎市で発生した、長年引きこもっていた51歳の男がバスを待っていた幼稚園児と保護者を襲って2人を殺害した後に自殺したという事件「川崎市登戸通り魔事件」や、その直後の6月1日に発生した元農水省事務次官の父親が長年引きこもっていた44歳の息子を殺害した「元農水省事務次官長男殺害事件」について触れられていて、自分たちの家族も将来あのようになってしまうのではないかと危惧する場面が出てきます。

 

就職して一流企業に勤めている長女は引きこもっている弟がいるせいで将来結婚できないのではないかと心配し、両親に働きかけて何とか引きこもりをやめさせようとしたことから大きな騒動に発展していくというストーリーです。

 

引きこもりの子供の心の問題、夫婦間や親子間の意見の違いやコミュニケーション不足の問題、長女とその恋人の家族との問題などが複雑に絡み合ってとても読みごたえがありました。また、息子がひきこもるようになった直接の原因は何なのかの謎などミステリー的な要素もあって重くて深刻なテーマではありますが面白く読むことができました。

 

その他にも、引きこもりの人やその家族を支援する制度や団体、逆に付け込んでくる悪徳業者にも触れられていて勉強になりました。

 

400ページもある長編小説でしたが、引きこもりしている本人や家族の心が行きつ戻りつ大きく揺れて葛藤している姿にはらはらしつつも読みやすい文章で分かりやすく、サクサク読むことができました。

 

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小説8050