とっく~ブログ 

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「八月の銀の雪」 伊与原新 新潮社

2021年の本屋大賞にノミネートされ、6位になった作品です。また、直木賞山本周五郎賞ノミネートされました。

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八月の銀の雪

作者の伊与原新さんは、神戸大学理学部を卒業し、東京大学大学院理学研究科で地球惑星科学を専攻していたそうで、この作品もそういった知識が存分に発揮された作品になっています。

 

「八月の銀の雪」は地球の内部構造や、クジラの進化や生態、ハトの帰巣本能など、地球科学や生物学などの科学的な事実をモチーフにした5つの物語を収録した短編集です。

 

人生がうまくいかず、生きづらく感じている登場人物たちが、偶然に科学に携わっている人たちと出会い、何かを学んで、自分の人生に当てはめて何らかのヒントを得て、前向きに変化していくというちょっと泣けて心温まる興味深い内容になっていて、どの物語も心に刺さりました。

 

この登場人物たちが何かヒントを得て前向きに生きていくというストーリーは、同じ2021年の本屋大賞ノミネート作品のなかにも2位になった「お探し物は図書室まで」青山美智子(ポプラ社)というのがありました。

 

こちらもとてもいい作品だなと思いましたが、こちらは本にまつわる連作短編で、「八月の銀の雪」科学にまつわる短編集ということでテーマは全く違いますが登場人物が何かできっかけをつかみ前向きに生きていく内容はどちらもとてもよかったです。

 

何かに悩む人が、そこから抜け出すきっかけをつかむ方法は人それぞれだろうけど、それが地球の内部構造だったり鳩の帰巣本能だったり、あるいはガラスの体を持つ小さなプランクトンだったりとスケールは全然違うけれど、心に刺さるものがどこに転がっていつのかわからないから面白いです。

 

ほかの人にとっては何も感じない知識や出会いが、ある人にとっては今後の人生に大きな影響を与えるほどのものになってしまう。

 

この作品ではこういった偶然の出会いが化学反応を起こして一人の人生を前向きに変えていくところがよくて、僕にとっては心に残る作品となりました。

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八月の銀の雪

考えてみれば本との出会いもこれに似ていると感じます。ほかの人にとっては何でもない内容に感じても僕にとっては大きな影響を与えてくれた本もたくさんありました。自分ではよくわかりませんが、その積み重ねで今の好きな自分があるのではないかと思います。本との出会いもこれからも大切にしていきたいと思います。