とっく~ブログ 

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テスカトリポカ 佐藤究 角川書店

「テスカトリポカ」は、つい最近発表された、2021年上半期の第165回直木賞で、澤田瞳子さんの「星落ちて、なお」と共にダブル受賞を果たした作品です。

 

直木賞の候補作だと知る前から書店でこの本を見かけて、タイトルとカバーデザインに強烈に惹かれるものを感じて気になってはいましたが、購入したのは直木賞の候補作だと知った後でした。

 

読む前から臓器売買や殺戮の描写など、かなりバイオレンスな内容らしいという噂を耳にしていたので読む前は少し身構えていました。

 

というのも、もう10年以上前ですが、タイを舞台に幼い子供たちを臓器売買を目的とした人身売買や幼児売買春の実態を描いた梁石日さんの小説「闇の子供たち」という作品を読んで暗澹たる気持ちになった経験があるからです。

 

 

 

 

貧しい村や難民キャンプなどから買われてタイの大都市に連れてこられたまだ幼い子供たちが、臓器を取り出すために殺されたり、幼児売春をさせられて、エイズのような病気にかかると、治療もされずにまだ生きたままゴミ袋に入れられてゴミ捨て場に捨てられてしまうといった凄惨な描写があって、こんなことが世界のどこかで実際に行われているとは信じられない気持ちでした。

 

この作品はのちに映画化されて、宮崎あおい江口洋介妻夫木聡といった有名俳優をつかって、主題歌は桑田佳祐という豪華キャストが揃ったすごいものでしたが、扱われているテーマがテーマなだけに、シネコンでの大々的な上映は無理だったのか、映画通が観にいくような単館の映画館で上映されていました。

 

「テスカトリポカ」は子ども達に重きを置いているわけではありませんが、同じく子供たちの臓器売買が重要なビジネスとして登場するので、「闇の子供たち」のことを思い出しました。

 

この「テスカトリポカ」という作品は、南米の麻薬カルテルインドネシアイスラム過激派組織、中国の闇組織などが活動するための資金を得るために手掛けている麻薬の密売や、臓器売買といった世界を舞台にした闇の資本主義をテーマにした壮大な物語でした。

 

この作品では特に心臓移植に重きを置いていて、超富裕層といわれる人たちが、心臓に疾患がある自分の子供に心臓移植をするために金に糸目をつけないことを見透かして、より価値を高めるためにスラム街など劣悪で過酷な環境で育った子供ではなく、日本の恵まれた環境で育った子供の臓器を提供するというシーンが描かれています。

 

また、象徴的なのがアステカ王国の、いけにえの心臓を神にささげる儀式で、繰り返し登場してきます。

 

殺戮、拷問、死体の解体、心臓を取り出す儀式など、バイオレンスの見本市といった内容でしたが、不思議と嫌な感じはなく、むしろこの作品が一体どのような結末を迎えるのか、全く想像がつかず、先が気になって、途中で読むのをやめようとは思いませんでした。

 

550ページを超える大作でしたが、世界規模のスケールで展開される壮大な作品で、ただ絶望を突き付けられるだけの内容でもなく、直木賞を受賞するにふさわしい作品だと思いました。