とっく~ブログ 

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夏空白花 須賀しのぶ ポプラ社

2018年に購入して読んだ作品の再読ですが、当時読んだ時より今現在の社会情勢の中で読むほうが断然しっくりきました。

夏空白花 (ポプラ文庫)

あらすじ

昭和20年8月。敗戦直後から高校野球(当時は中等学校)の復活を目指して立ち上がった人々の物語。

 

プロ野球を優先させるべきとして学生野球に対して無理解なGHQ

 

今日食べる食料にも事欠くときに野球とは何事だ!という世論。

 

それでも、甲子園大会の復活を熱望する子供たちのためにGHQとの折衝や野球連盟の設立のために全国を飛び回る朝日新聞の記者たち。

 

GHQや日本政府、文部省との攻防。

 

戦争によって5年間中断された夏の甲子園は復活できるのか?

感想

今年2021年は、コロナ禍での東京オリンピックの開催の是非が大激論され、一方、昨年中止となった全国高校野球選手権大会が2年ぶりに復活したという、有事とスポーツについて考えさせられる年となりましたが、この作品はまさにこんな社会状況の時に読むのに最適な作品だと思いました。

 

空襲を受けて全国の多くの都市が焼け野原。

 

野球道具もほとんどなく、学校のグランドは畑にされているか、がれきの山になっているか。

 

さらに、戦時中は、野球は敵国アメリカ発祥のスポーツとして排撃を受け禁止されたために、野球をやったことがない子供も多く、レベルもがた落ち。

 

そして、今日生きるための食糧にも事欠くという状況。

 

一方、日本にやってきた進駐軍は、甲子園や神宮といった主な野球場を接収し、軍人たちのための野球場として日本人の使用を禁止に。

 

おまけにGHQは、学生は勉学を優先させて、まずはプロ野球の復活を優先させるべきという立場。

 

これら数々の困難を乗り越えて、敗戦の翌年の昭和21年の夏に甲子園大会を復活させようなど無謀としか思えないことをやってのけた人々の話は読み応えありました。

 

3年前に読んだときは、すごい人たちがいたんだなぁと、ただ感動しましが、昨年からのコロナ禍の状況で、高校野球が中止され、東京オリンピックが延期になるなど、現在と重なる部分も多く、改めて、いろいろ考えさせられました。

 

僕自身もそうでしたが、多くの国民はオリンピックよりも優先させることがあるだろうと。

 

こんな世論の中で東京オリンピックを強引に開催しようとする東京都やIOC、日本政府に対し不信感を覚えました。

 

この作品の中でも戦後の混乱の中で高校野球(当時は中等学校)を復活させることの意義が問われ、朝日新聞にもそういった投書が多く寄せられたそうです。

 

甲子園大会復活の裏には、戦時中の戦争礼賛といった記事を書いた責任追及を回避するためや、文部省に奪われた主催者としての権利を取り返したいといった事情もあったようですが、混乱期の中でも大会復活を熱望する選手たちも多く、オリンピックを開催してくれてありがとうと、感謝を述べるメダリストたちの姿と重なりました。

 

そのほかにもこの作品には見どころが多く、日本のヤキュウとアメリカのベースボールの違い、戦前の甲子園の名選手たちのエピソード、今や伝説の投手沢村栄治の悲劇、現代にもつながる、朝日新聞と日本政府の因縁など、高校野球好きには興味津々の話がちりばめられています。

 

そして、作中で重要な役どころとして登場する、エヴァンス中佐を、かつてハイスクール時代に試合できりきり舞いにさせた日系人のピッチャーとはだれなのかといった、小説の中での謎や見どころもあり、とても面白かったです。

 

作者の須賀しのぶさんの作品は、以前「革命前夜」という作品を読んだことがありますが、ほかにも高校野球に関する作品を幾つか書いているようなのでそちらも読んでみたいと思いました。