とっく~ブログ 

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白村江 荒山徹 PHP文芸文庫

歴史の教科書で習った白村江の戦にこんなに壮大な背景がったとは!

当時の東アジア情勢の中で蠢く国同士の駆け引きや陰謀に翻弄された亡命百済王子と彼と出会った倭国の少年少女たちとの友情と絆と愛を描いた人間ドラマ!

白村江 (PHP文芸文庫)

あらすじ

西暦660年、百済は唐と新羅の連合軍に滅ぼされ、百済の王族たちは唐に連れ去られた。

 

百済の政争に巻き込まれ幼い頃に倭国に亡命していたためにただ一人残っていた王族の豊璋を担ぎ百済の再興を図る旧家臣たち。

 

葛城皇子(後の天智天皇)、新羅の金春秋、高句麗の泉蓋蘇文など、各国の思惑が入り乱れ、東アジアは激動の時代に。

 

その中で幼いころからの友情をはぐくみ唯一信頼できる友となった豊璋と田久津、そして豊璋を愛してしまったそえ。

 

否応なしに東アジアの混乱に巻き込まれる三人の運命は!?

感想

小学生か中学生の日本史の教科書で習った白村江の戦は、西暦663年に倭国百済の連合軍が白村江で唐・新羅の連合軍と戦って敗北したということと、唐・新羅の軍勢が倭国に攻めてくるのに備えるために各地に水城を作って防人を置き、都を飛鳥から大津に移したということくらいでした。

 

しかし、この小説に描かれている白村江の戦はそんな薄っぺらいものではなく、戦いから300年以上遡る壮大な背景があることを知りました。

 

中国の歴代王朝と朝鮮半島に割拠する新羅百済高句麗といった諸国と倭国には密接な関係があり、当時の日本は朝鮮半島に事あるごとに派兵して新羅高句麗と交戦するなどの軍事介入を行っていて、朝鮮半島情勢に深くかかわっていたことがこの作品を通してよくわかりました。

 

しかしこの作品の見どころはそれだけではなく、この激動の東アジア情勢に否応なしに巻き込まれていく人々の悲しい運命です。

 

葛城皇子天智天皇)、蘇我入鹿中臣鎌足といった歴史上の有名人も数多く登場するのですが、この作品の主人公は百済から亡命してきた王子豊璋です。

 

彼が百済で兄に殺されそうになったところを蘇我入鹿に助けられて倭国にやってきてから、日本語が話せずにいじめられたり、やっとなじんできた矢先に庇護してくれていた蘇我入鹿乙巳の変で殺されたりといった過酷な人生を送り、すべてをあきらめ心を閉ざしてしまいます。

 

そんな中で出会った人々との愛や友情が心温まるホッとできる場面です。

 

豊璋の周辺が次第に緊迫し運命に翻弄されていく中で豊璋、田久津、そえの三人の愛と友情が涙を誘います。

 

新羅倭国の秘密同盟とは?葛城皇子中臣鎌足が白村江の戦を起こす真の目的は何なのか?など、様々な伏線が張られる中、三人はどうなってしまうのか気になって500ページを超える長編でしたがサクサク読めました。

 

教科書の字面だけ追いかけてもわからない歴史の深さをこの作品から改めて教えてもらいました。これだから歴史小説を読むのはやめられないです!