荒木村重が織田信長に突如、反旗を翻し、居城である有岡城に一年近く籠城し、最後は悲劇的結末に終わった有岡城籠城戦。
この歴史的大事件をミステリー作家の米澤穂信さんが描いた歴史とミステリーが融合した重厚で骨太な作品です。
籠城している有岡城内で次々に起こる不可解な殺人事件の真相を突き止めるために捜査を行う城主の荒木村重とそれらの情報をもとに事件の謎を解明する、城内地下の土牢に幽閉されている黒田官兵衛。
作品中のそこかしこに散りばめられた疑惑と伏線が複雑に絡み合って段々と事件の真相と歴史的事実に近づいていくところがすごかったです。
荒木村重はなぜ織田信長を裏切ったのか、どうして最後は妻子や家臣たちを捨てて一人で有岡城から逃げてしまったのかなど、謎が多い有岡城籠城戦ですが、なぜそこに至ったのかという村重の心理の変遷もしっかり描かれていてとても読みごたえがありました。
また、武士として死ぬことも許されず、人質である息子の松壽丸を殺されてしまい、荒木村重のことを激しく恨む黒田官兵衛。
地下の土牢に幽閉されていながら村重の情報だけで謎を解いてしまう官兵衛の真の狙いとは?
米澤穂信さんの作品は、10年近く前に「氷菓」などの古典部シリーズを何作品か読んだことがあったけど、自分としてははまらなくて、それ以来米澤さんの作品は読んでいなかったのですが、この作品は現代の高校生が主人公の古典部シリーズとは全く違いました。
常に死と隣り合わせの戦国武将たちが主人公ということもあり、この中に裏切者がいるのではないかという猜疑心と疑惑が付きまとうという重厚で骨太な、重苦しい雰囲気の作品でした。
またこのような歴史とミステリーが融合した作品を期待したいです。