現代の中国やロシアのように軍事力で現状を変更し、領土を拡大させていた弱肉強食の戦国時代において、領民の生命と財産を守り、対話を重視するという政策を掲げて領土を拡大し、関東に大国を築いた小田原北条氏について書かれた新書です。
その中でも本書は特に武田信玄、上杉謙信、今川義元といった名だたる戦国武将と同時代を生き、領国を接しながらも対等以上にわたりあった北条氏康をメインに取り上げています。
小田原北条氏は初代の北条早雲から五代氏直まで100年以上続きますが、なかでも三代氏康は、際立った手腕を発揮して北条氏を躍進させて関東での地位を盤石なものにします。
8000の敵で10倍の80000の軍勢を撃破した河越合戦での天才的軍略、民を重視する理想的な内政など卓抜した手腕を氏康は発揮したとのことです。
著者は、軍略なら武田信玄、局地戦闘(用兵術)なら上杉謙信、奇襲戦と侵略戦なら織田信長、攻城戦なら豊臣秀吉、野戦なら徳川家康に北条氏康は劣るが、領国統治能力なら戦国時代最強だと書いています。
また、武田信玄の領国経営を例に挙げてそのやり方や違いを比較していたり、上杉謙信が掲げていた「義」と北条氏が早雲以来掲げてきた「義」との違いなどは大変興味深かったです。
織田信長が「天下布武」を掲げて領土を広げたように、戦国時代は力による現状変更が当たり前だった時代に「禄壽応穏ろくじゅおうおん」(領民の生命と財産は北条氏が守るという誓い)「四公六民」といった旗印を掲げて民との対話を重視し、その声を聞き入れ、彼らの生命と財産を守ってやることで北条氏は大国にのし上がったといいます。
戦国時代において民主主義に近い政治形態を有して「義」や「善」「正義」を大切にした北条氏康は稀有な存在です。
ぼくは1988年の大河ドラマ「武田信玄」に登場した杉良太郎演じる北条氏康のイメージしかなかったので、大変勉強になりました。
身勝手な自国第一主義や保護主義が吹き荒れる現代において、彼を主人公にして大河ドラマを作ってもいいんじゃないかと思いました。
北条氏康を主人公にした歴史小説もあるので、そちらも購入して読んでみたいと思います。