とっく~ブログ 

読んだ本の紹介をメインに、小説に出てきた聖地巡礼や、写真など

赤と青とエスキース 青山美智子 PHP研究所

赤と青とエスキース

僕は読書が大好きで、年間200冊近く読むのですが、斜陽産業といわれる出版界、そして、本屋さんや作家さんの応援も兼ねて、書籍はなるべく図書館ではなく、本屋さんで購入するようにしています(さすがにすべてというわけにはいきませんが)。

 

毎年発表される本屋大賞も、ノミネート作品10作品すべて購入して読むようにしています。

 

普段なかなか自分から手にとって読むことがない恋愛小説といったジャンルもあるので、良い刺激になっています。

 

今年ノミネートされた作品のうち、3作品は昨年の直木賞にノミネートされた作品として読了済みなのですが、それも含めてすでに4作品を読破し、この作品が5作目です。

 

この作品も恋愛小説に分類される作品なので、本屋大賞にノミネートされていなければおそらく手に取っていなかったと思いますが、心に残る作品になりそうです。

あらすじ

メルボルンに語学留学した女子大生(物語の伏線になっているので二人の名前は言えません)が現地在住の日本人学生と恋に落ちる。

 

彼女は、彼の友達で画家を志しているオーストラリア人のジャックからモデルを頼まれるが、日本へ帰国する日が近づいていた。

 

ジャックは下絵だけを描き、あとは一人で完成させることにする。

 

一方、出会った二人の恋の行方は?二人の人生の下絵は絵画として完成するのか。

 

エスキース(下絵)と名付けられた絵画と二人の男女の三十数年の物語。

感想

この作品の作者である青山美智子さんの作品を読んだのは昨年の本屋大賞第2位だった「お探し物は図書室まで」に続いて2作目ですが、同じ作家が書いたものとは思えないほどストーリーも、文章の印象も違っていて、技量の深さを感じました。

 

「お探し物は図書室まで」は公民館の図書室にいる、髪にかんざしを挿したクマのように大きな司書が悩みを抱えた来訪者たちに本を奨めて人生の気づきを与えるというハートフルな作品でしたが、主人公のキャラクターもあって少しコメディチックな印象もありました。

 

 

しかし、この作品は、透明感を感じる文章がとても印象的で心地よく、大人の恋愛を淡々と静かに描いているという印象を持ちました。

 

一見、登場人物も物語の年代もばらばらの連作短編集なのですが、それらが伏線にもなっていて、終盤には一気にそれらの伏線が回収されて真実がわかり、感動で鳥肌が立ちました。

 

人生を一枚の絵画に例えて、下絵から完成に向かって進んでいくところがとてもいいなと感じました。

 

 

エスキース

デッサンやスケッチなどと意味合いは似ているが、決定的に違うことがある。

それを元にして、本番の作品を必ず完成させる。描き手にその意思があるということ。

 

描いているうちに、自分でも予想できないことが起きるんだ。筆が勝手に動いたり、偶発的な芸術が生まれたり。思ったとおりにすらすらと描けたらそりゃあ気持ちいいだろうけど、どちらかというとそっちのほうがおもしろくて、絵を描くことがやめられない。たとえ完璧じゃなくても。

エスキースを描いた、画家を志すオーストラリア人のジャックが語ったこれらの言葉が人生を表しているようでとても印象に残りました。

 

この作品は本屋大賞で何位になるのか、4月6日の発表が待ち遠しいです。