今まで数々の豊臣秀吉を主人公にした小説読んできましたが、トップクラスで情けない秀吉❗
読んでてイライラしました❗
こんな人にお薦めです。
・歴史小説が好き
・木下藤吉郎時代の秀吉が知りたい
・主人公の成長ドラマが好き
著者の矢野隆さんは2007年に「臥龍の鈴音」で小説すばる新人賞最終候補になり、2008年「蛇衆」で第21回小説すばる新人賞を受賞しました。
その後も数々の歴史小説を出されているようなのですが、恥ずかしながら存じ上げず、こんな面白い小説を書く人の作品をこれからどんどん読んでいきたいと思いました。
作品の時代は竹中半兵衛を与力として迎えた永禄10年(1567)木下藤吉郎が31歳から浅井氏を滅ぼして北近江12万石と小谷城を与えられる天正元年(1573年)37歳頃までの時期にフォーカスした物語です。
織田信長の妹の於市が浅井長政に嫁ぐことが決まり、於市に密かに恋心を抱いていた木下藤吉郎は悶々とした日々を過ごすがひょんなことから妻の於禰に自分の気持ちを知られてしまい、夫婦仲が悪くなってしまう。
仲直り出来ないまま各地を転戦するうちに於禰と顔を合わす機会も減ってしまい夫婦仲はますます冷えていく一方で於市の夫で織田信長の同盟相手である浅井長政に対しては嫉妬心を募らせる。
そんな中、突然浅井長政が裏切り、窮地に陥った信長は木下藤吉郎に殿を命じるが、金ヶ崎の退き口で死への恐怖に耐えられなくなった藤吉郎は部下や兵を捨てて一人で逃げ出そうとする大失態を演じてしまう。
そんな木下藤吉郎を見捨てずに支える弟の小一郎や蜂須賀小六、竹中半兵衛らに励まされ少しずつ前に進む藤吉郎が心に決めた決意と大きな決断とは⁉️
物語前半の木下藤吉郎にはとにかくイライラさせられました。
美しく献身的に夫を支える於禰という素晴らしい妻がいるにも関わらず、実るはずもない主君の妹への恋心を抱いて悶々としたり、それが於禰にばれると開き直って声を荒らげたり。
また、金ケ崎の退き口では蜂須賀小六が必死で戦い重傷負ったのにそれにも構わず一人で逃げようとして醜態をさらし、竹中半兵衛や小一郎に叱責される。
まったく無様で情けない❗
しかし、死の恐怖の中で於禰が自分にとっていかにかけがえのない存在かに気がつき、会いたいと願う気持ちが芽生え、その後も転戦していくなかで藤吉郎の心にも徐々に変化が起こります。
そして後半にはめざましい成長を遂げた藤吉郎がとても頼もしく眩しく見えました。
後に天下統一を成し遂げる豊臣秀吉のターニングポイントとしてこの物語は描かれているのです。
印象的な登場人物としては何を考えているのかわからない不気味なキャラとして描かれている明智光秀。
明るくニコニコしているが藤吉郎の事を冷ややかに見ている徳川家康。
髑髏のように痩せているが藤吉郎を力強く励まし支える竹中半兵衛です。
他にも蜂須賀小六や前野長康、後の豊臣秀長である小一郎など個性的なキャラと情けない木下藤吉郎との漫才のような掛け合いが面白くて、作品の魅力になっています。
特徴的な明智光秀や徳川家康と、ハッキリと天下を目指すことを決意した木下藤吉郎がその後どうなっていくのか、この物語の続編が読んでみたいと思いました。