第164回直木賞受賞作品です。
大都市江戸の片隅を流れる心川(うらかわ)の岸辺の町に流れ着いた、過去や心に傷を持つ人々が懸命に生きる姿を描いた連作短編集です。
長い長い旅の果てに僕はこの岸辺にやってきた
何処に向かい流れてるの?目の前の河よ
向かう場所も見失ってなのに何故僕は生きてるの?
問いかけてもこの景色は何も答えない
これは僕が昔好きだった矢野真紀という歌手の「夜曲」という切ないバラード曲の冒頭の歌詞ですが、この作品を読んでいて久しぶりにこの歌を思い出しました。
過去に大きな挫折を経験した者、生まれつきの不幸な境遇の果てにやって来た者、この地で生まれ育ったが、早く出ていきたいと願う者など事情は様々だが、この町で皆が懸命に生きている。
思い通りにいかない人生を嘆きながらも何とか前向きに生きていこうとする登場人物たちの姿に共感しつつも物悲しさ、寂寥感を感じました。
「誰の心にも淀みはある。事々を流しちまった方がよほど楽なのに、こんなふうに物寂しく溜め込んじちまう。でも、それが、人ってもんだ」
「生きてりゃどうしたって、悲しみはついてくる。情けない思いもいっぱいする。(この町は)駄目なてめえを、ありのまんま受けとめて黙って見守ってくれる。そんな気になるんでさ」
「人が生きる場所、か…」「生き直すには、悪くねえ土地でさ」
決して希望のある明るい内容ではありませんが、心にじわじわと感じてくるものがある作品でした。