とっく~ブログ 

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異邦人(いりびと) 原田マハ PHP文芸文庫

異邦人 (PHP文芸文庫)

あらすじ

出産を控えた有吉美術館の副館長・菜穂は東日本大震災による原発事故で放射能汚染の脅威にさらされた東京を離れ、京都に長逗留しながら地元の名だたる名士や文化人と交流し、京都の魅力にどんどんのめりこんでいく。

 

そんな中、京都の老舗画廊に飾られていた一枚の絵に心を奪われる。

 

抜群の審美眼を持つ菜穂の心をひきつけて離さなくなったその絵を描いたのはまだ無名の若き女性画家だった。

 

一方、東京の菜穂の実家である不動産会社とその傘下にある個人美術館の有吉美術館、そして夫の父親が経営する老舗画廊は東日本大震災による買い控えの影響で急速に経営状態が悪化していた。

 

華麗なる一家の栄光と挫折、新たな出発を描く物語。

 

感想

僕は「楽園のカンヴァス」という作品を読んで以来原田マハさんの作品が大好きで、彼女の作品はすべて読破しようと思い、今のところ20作品近く読んでいます。

 

今まで読んできた作品はアートをテーマにしたものを中心に苦労や挫折がありながらも前向きに生きていくストーリーや深い感動を呼んで泣けるものが多かったのですが、この作品は今まで読んできた原田マハさんの作品の中ではちょっと異質な作品という印象を持ちました。

 

主人公の菜穂は美術品の価値を見極める超一流の審美眼の持ち主ですが、大金持ちの家に生まれて何の苦労もしてこなかったせいかわがままで自分勝手で、思い通りにならないと機嫌が悪くなるというお嬢様です。

 

また、夫やその父親、菜穂の実家の両親も何代も続く名家の生まれなので洗練はされていますが所詮は自分や会社の経営を優先させるところがあり、妊娠して一人で京都に逗留している菜穂のことは二の次にしてしまいます。

 

なので、どうもどの登場人物にも肩入れしにくかったです。

 

ここのところ、中山七里さんの貧困に追い込まれて餓死したり、自分の臓器を売ってしまうといった貧困格差がテーマの作品を立て続けに読んでいたこともあり、この作品の登場人物たちが貧困とは無縁のタワーマンションに住んでいたり、高級ホテルに長く滞在するとかいった話にイライラしました。

 

さすが原田マハさんのアート小説だと思う京都の歴史や伝統文化、それらに育まれてきた文化人たちに関する描写は素晴らしいのですが、没落していく華麗なる一族と、それに否応なく巻き込まれていく菜穂の抵抗など、ずっと不穏な雰囲気が漂っていてもやもやしながら読みました。

 

最後もハッピーエンドという感じでもなく、まるで湊かなえイヤミスを読んでいるような感じでした。

 

本の裏表紙の紹介にも著者新境地の衝撃作と書いてあるのでまさにそういった作品だった思います。

 

まだまだ原田マハさんの作品はたくさんあるので、すべての作品読破を目指して読んでいきたいと思います。