織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という三人の天下人に仕え、武勇だけではなく、敵方との難しい交渉を成立させて秀吉や家康から絶大な信頼を勝ち取った戦国時代のタフ・ネゴシエーター堀尾吉晴の生涯を描いた小説の下巻です。
堀尾吉晴はそれほどメジャーな戦国武将ではないかもしれません。
僕も2015年に国宝に指定された松江城を築城した人というくらいしか認識がなかったのですが、この作品を読んで、大河ドラマの主人公になってもいいくらいのすごい武将だということを知りました。
若き日の堀尾吉晴は初陣においていきなり一番槍で敵を討ち取るという大手柄を挙げながら、戦に敗れたために主家である岩倉織田家が滅ぼされ、一族でしばらく浪人となって猟師をしたりして飢えをしのいでいました。
その後は敵方だった織田信長に仕えて木下藤吉郎に出会い、蜂須賀小六や前野長康と並んで最古参の家臣となって数々の戦で敵将を討ち取る手柄を挙げます。
また、武人として優れているだけではなく、播州三木城、鳥取城、備中松山城などの有名な包囲戦において、敵方との交渉を任されて平和的な開城に導きました。
賤ケ岳の戦いでは大垣城の城主氏家直道を説得して味方につけるという難しい交渉を任されて成功するという手柄を上げます。
また、関ケ原の合戦前夜には徳川家康と豊臣恩顧の大名たちとの対立を避けるために奔走し、家康からも感謝されて信頼されるようになりました。
関ケ原の合戦の直前には池鯉鮒(現在の知立市)において刃傷沙汰に巻き込まれて17か所に切り傷を受けて重傷を負いながらも反撃して生き延びるという武勇と奇跡をおこします。
プライベートでは将来を期待していた長男、次男、二女に次々と先立たれ失意に打ちひしがれながらも、次男忠氏の悲願であった松江城を、彼の遺志を引き継いで生涯最後の大仕事として完成させるなど、とてもドラマチックな戦国武将といえます。
出身地の愛知県や松江城のある島根県をはじめ、京都、滋賀、静岡などゆかりの地は全国各地にあるので、大河ドラマになれば全面協力も得られると思うので成功間違いなしだと思います。
また、この作品のすごいところは堀尾吉晴の生涯を描くだけでなく、彼が生きた戦国から安土桃山時代の武家の暮らしや戦場でのしきたり、作法といったことから太刀と刀の違い、戦で乗る馬の世話のやり方など、ほかの作品では書かれないような細かいことまで描写されていて、当時の時代の雰囲気がリアルに感じられ勉強になります。
自分が面白いと思って特に印象に残っているのは側室を迎える時にもしっかりとした手続きや作法があって正室を迎える時と何ら変わらないこと、武家だけではないが、一人目の妻が二人目の妻に嫉妬した場合は殴り込みをしてもよいという「うわなり打ち」という風習があったというものです。
この「うわなり打ち」にもちゃんとした手続きとルールがあって、事前に何月の何日に行うと知らせること、殴り込みは女性だけに限る、棒や木刀はよいが刀や薙刀はダメ、物は壊してもいいが、人は絶対に傷つけない、頃合いを見計らって仲裁人を立てるといった決まりがあって一種のガス抜きになっていたのだそうです。
これは当時の人たちの「一分を立てる」という考え方から来ていて、武士の一分、正室の一分、側室の一分がそれぞれにあってかっこいいと思いました。
この作品を読んで堀尾吉晴のゆかりの地を巡ってみたいと感じました。
残念ながら松江城は遠く、コロナ禍でもあるのですぐにはいけそうにありませんが、自分が住んでいる愛知県は彼の生誕地ということで若いころのゆかりの地はいくつかあるということで行ってみようと思います。