とっく~ブログ 

読んだ本の紹介をメインに、小説に出てきた聖地巡礼や、写真など

「心淋し川(うらさびしがわ)」西條奈加(集英社) 1600円+税

第164回直木賞受賞作品です。

大都市江戸の片隅を流れる心川(うらかわ)の岸辺の町に流れ着いた、過去や心に傷を持つ人々が懸命に生きる姿を描いた連作短編集です。

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長い長い旅の果てに僕はこの岸辺にやってきた

何処に向かい流れてるの?目の前の河よ

向かう場所も見失ってなのに何故僕は生きてるの?

問いかけてもこの景色は何も答えない

これは僕が昔好きだった矢野真紀という歌手の「夜曲」という切ないバラード曲の冒頭の歌詞ですが、この作品を読んでいて久しぶりにこの歌を思い出しました。

過去に大きな挫折を経験した者、生まれつきの不幸な境遇の果てにやって来た者、この地で生まれ育ったが、早く出ていきたいと願う者など事情は様々だが、この町で皆が懸命に生きている。

思い通りにいかない人生を嘆きながらも何とか前向きに生きていこうとする登場人物たちの姿に共感しつつも物悲しさ、寂寥感を感じました。

「誰の心にも淀みはある。事々を流しちまった方がよほど楽なのに、こんなふうに物寂しく溜め込んじちまう。でも、それが、人ってもんだ」

「生きてりゃどうしたって、悲しみはついてくる。情けない思いもいっぱいする。(この町は)駄目なてめえを、ありのまんま受けとめて黙って見守ってくれる。そんな気になるんでさ」

「人が生きる場所、か…」「生き直すには、悪くねえ土地でさ」

決して希望のある明るい内容ではありませんが、心にじわじわと感じてくるものがある作品でした。

「「関ヶ原」の決算書」山本博文(新潮新書)800円+税

戦国時代の戦にはどんなことにどのくらいのお金がかかったのか、軍の部隊編成や武器や食料の調達、どこまでが自己負担でどこからが大名の負担だったのかを具体例や数字を交えながら詳しく解説しています。

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豊臣秀吉の天下統一以前と以後で戦争の仕組みにどのような変化があったのか石高によってどのような負担が大名に課されたのかなどとても興味深かったです。

また、関ヶ原の戦いにおいて西軍に属していながら唯一戦後お咎め無しで済んだ薩摩の島津氏の経緯について戦前の徳川家康との関係から、有名な関ヶ原における「島津の退き口」のあと島津義弘が薩摩に辿り着くまでを詳しく記しています。

そして関ヶ原の合戦後の豊臣氏や大名たちの収入や勢力図の変化、徳川家康が後の大坂の陣に繋がる財力の基盤をどう固めていったのかが書かれていてとても勉強になりました。

著者の山本博文東京大学教授がこの本の出版直前に癌で亡くなられたとのことで謹んでお悔やみ申し上げます。

小説を5冊購入

週に2回はいつも覗いている書店で小説を5冊衝動買いしてしまいました。

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まだ読んでいない積ん読本が山ほどあるのですが、どの作品も今が旬のものばかりで今買わないと平積みから撤去されて忘れてしまうと思ったのでついつい買ってしまいました。

「雄気堂々」城山三郎(新潮文庫)

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今年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公渋沢栄一の生涯を描いた作品のようです。

城山三郎の作品では「黄金の日日」や「落日燃ゆ」は聞いたことがあるのですが読んだことはありませんでした。

黄金の日日」は僕がまだ小さい頃でしたが大河ドラマになったので覚えています。僕が初めて観た大河ドラマでした。

この「雄気堂々」は初版が昭和51年となっているので45年も前の作品ですが今回の大河ドラマに合わせて平積みされていたようです。

ドラマの予習に読んでおきたいと思います。

「総理の夫」原田マハ(実業之日本社)

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原田マハ作品は全て読破しようと思っているほど大好きな作家なので平積みされているのを見て買ってしまいました。

2013年7月に初版が発行された作品で今年秋に映画が公開されるようです。

史上初の女性で最年少総理の誕生とそれを支える夫の物語のようです。

オリンピック委員会会長の女性蔑視発言など女性の政治や社会への進出が話題になっている時期でもあるのでそういう意味でも旬だなと思いました。

「心淋し川(うらさびしがわ)」西條奈加(集英社)

つい最近第164回直木賞受賞を受賞した作品です。

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直木賞が発表される直前に「銀杏手ならい」という作品を読んでいて、面白かったのでこの作品も読んでみたいと思い、購入しました。

「滅びの前のシャングリラ」凪良ゆう(中央公論新社)

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2021年本屋大賞ノミネート作品です。

昨年の本屋大賞では「流浪の月」が見事大賞を受賞して今年もこの作品がノミネートされたので、まさに旬の作家ですね。

前回の作品も重たいテーマの作品でしたが、この作品も小惑星が衝突する1ヶ月前の世界を描いている作品らしいので、明るい内容ではなさそうです。

本屋大賞発表までには読んでみたいです。

こちら愛知県は緊急事態宣言が2月いっぱいで解除される可能性が高くなってきましたがまだまだコロナ禍は続いている状況なので、休みの日は読書最優先でたくさん読んでいこうと思います。

「この本を盗む者は」深緑野分(角川書店) 1500円+税

2021年本屋大賞ノミネート作品です。

書物の蒐集家の御倉嘉市がつくった巨大な書庫「御倉館」を所有管理する御倉家の一人娘の女子高生深冬は幼い頃に祖母から読書を強要されて本を嫌いになった。

ある日、御倉館の蔵書が盗まれるとブック・カース(本の呪い)が発動し、たちまち街は本の中の世界に変貌した。

もとに戻すには本を盗んだ犯人を捕まえなければならないと知った深冬は様々な本の世界を冒険していくことに。

誰が何故、どうやってこのような仕掛けを作ったのか。本を盗んだ犯人の目的は?深冬は本を好きになれるのか?

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主人公が女子高生で、犬に変身できる不思議な少女と本の世界を冒険していくファンタジーという設定のためか、アラフィフのおっさんの僕には正直言っていまいち刺さりませんでした。

それでも本嫌いの深冬が冒険をしていくうちに次第にその心情にも変化がおきていく過程は良かったです。

あと、万引きに頭を悩ます書店が多く、中には廃業に追い込まれるような被害を被る店もあるのだと知って衝撃を受けました。

ただでさえオワコンと言われる出版業界や書店をもっと応援していきたいと思いました。

映画「ファーストラヴ」を観賞

映画「ファーストラヴ」主演:北川景子、監督:堤幸彦を観てきました。

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「ファーストラヴ」は島本理生さん原作の小説で、第159回直木賞受賞作品です。

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タイトルだけ見ると恋愛小説なのかなと思ってしまいますが子供の性的虐待というとても重たいテーマを扱ったミステリー小説といっていい作品です。

登場人物の設定がしっかりしていて感情移入しやすく、作品中に謎や伏線がたくさん散りばめられていて重たい作品ながら一気読みしてしまいました。

そんな作品を堤幸彦監督がどの様に映像化してくれたのかとても興味深かったので休日に早速観に行って来ました。

結論から言うと映像と音楽にすっかり引き込まれました✨

時間的に制約があるので小説に出てきたエピソードで映画に描かれなかったシーンや出てこない登場人物もいましたが、重要なシーンはしっかり描かれていたのでさほど違和感も感じませんでした。

主演の北川景子や、中村倫也窪塚洋介といった主要な役を演じた俳優も原作との違和感は全く感じずすんなり入ってきました。

圧巻だったのが殺人を犯した女子大生を演じる芳根京子です。原作ではそれほど感じなかったのですが情緒不安定になって錯乱するシーンや面会に来る主人公に挑発的になったり怒鳴ったりするシーンは狂気を感じてゾッとなりました。

朝ドラでヒロインを演じていた頃は可愛らしい若手女優という認識しかなかったのですが、演技派で実力のある俳優という認識に変わりました。

また、原作では印象が薄かった窪塚洋介が演じる主人公の夫でカメラマンの真壁我聞が妻や弟を優しく見守る姿勢や眼差しがとても印象的で良かったです。

彼が撮影した作品や、その作品を見て主人公の由紀を演じる北川景子が涙を流すシーンは原作にはない場面ですが見ているこちらも涙を誘われました。

家庭に闇を持つ聖山家や由紀の家族と原作には登場しない真壁家の幸せそうな笑顔の家族写真との対比が家族というものを描くこの作品の象徴だと感じました。

また、Uruが歌う主題歌のメロディがとても切なく、彼女の歌声とすごくマッチしていてこの映画にピッタリだと思いました。

とても重たいテーマの作品ですが観た後の感じは清々しくて前向きな気持ちになれました✨

他の人にも原作と映画の両方をみてほしいです。

「ファーストラヴ」島本理生(文藝春秋) 1600円+税

第159回直木賞受賞作品です。

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実は2018年の11月にこの本を買って、すぐに読んだと読書アプリに記録が残っているし、本棚にきっちり収まっているのですが、とんと内容が思い出せず、今回映画化されたということで再読してみました。

アナウンサー志望の女子大生聖山環菜が採用試験を受けた直後に父親を刺殺。親子の間に何があったのか?

臨床心理士の真壁由紀と弁護士の庵野迦葉が事件を追っていくと、次第に聖山家の闇が見えてくる。

あらためて読んでみると、性的虐待という家庭の闇をあつかったとても重たい作品なのですが、登場人物たちの設定や心理描写、心の変化していく過程が面白く、思わず感情移入してしまい物語に引き込まれました。

また、ミステリー的な要素も多くあるので、早く答えが知りたくてどんどん読み進めました。物語が進むにつれて謎が解けたり伏線の回収がきっちりあってその点も面白かったです。

そして終盤の法廷での裁判のやり取りもヒリヒリするような緊張感が伝わってきて胃がキュッとなりました。

タイトルだけ見ると恋愛小説なのかなと思ってしまいますが、「ファーストラヴ」というタイトルにも悲しくて切なくて深い理由があって、それを知るとじわっと涙が滲んできました。

「愛情ってなにか分かる?私は、尊重と尊敬と信頼だと思ってる」

この主人公で臨床心理士庵野由紀が聖山環菜に言った言葉が特に印象に残っているし、物語の大きなテーマだと思いました。

なぜこんな面白い作品を失念していたのか本当に不思議です。

映画はどの様に描かれているのか是非観たいと思います。

「逆ソクラテス」伊坂幸太郎(集英社) 1400円+税

2021年本屋大賞ノミネート作品です。

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小学生の子供たちを主人公にした5編の短編集です。

嘘をついてはいけません、人を見た目で判断してはいけません、自分の価値観を人に押し付けてはいけません、といった大人でも犯す過ちをテーマに子供目線から見た物語です。

ミステリー的な要素は薄いですが解りやすく面白くてすいすい読めました。