とっく~ブログ 

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「日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る」播田安弘(ブルーバックス) 1000円+税

エンジニアの著者が物理や数学の観点から歴史を見る、歴史好きには大変興味深い内容の本です。

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1回目の蒙古襲来である文永の役で、鎌倉武士たちを圧倒的に打ち負かしたはずのモンゴル軍はなぜ進撃せずに撤退したのか。

明智光秀を討つために羽柴秀吉が行った有名な「中国大返し」はどの様に成功させたのか。

戦艦大和は本当に時代遅れの無用の長物だったのか。

この三つの共通点は船に関係があることなんですが、日本史において大きなこの3つの出来事を船の設計のプロである著者が具体的な数字をあげながら検証していて、とても面白かったです。

物理や数学を駆使していると言っても数式などは出てこないので、文系である僕も抵抗無く読めました🎵

第1章の蒙古襲来ではモンゴル軍が日本を攻めるときの準備に要した期間や船を造るために必要な木材の量や森林面積、船大工の人数やその宿舎、食事の世話をする人などのマンパワー等から実際の艦隊の規模を割り出したりしています。

また、上陸地点や鎌倉武士たちの実際の戦いかたなど定説との矛盾点を指摘したりして計算から見えてくる真実はかなり違ったものではないかとしていて大変興味深いです。

第2章の中国大返しでも距離や兵士の歩行スピードはもちろん、消費するカロリーから必要な食糧を割り出したり、馬の数とえさ、二万の兵士と二千頭の馬が移動する間に排泄する糞尿の量まで割り出して、秀吉がいかにしてこの歴史的な出来事を可能にしたかを具体的な数字をあげて検証しています。

第3章の戦艦大和に関しては著者自身が「アルキメデスの大戦」という映画で製図を監修したということでかなり熱く語られています。

戦艦大和がいかに凄い戦艦であったか、攻撃力、防御力などを艦の構造や材質、武器など具体的な数字をあげながら示したうえで当時の軍部の戦略や戦術、組織の構造が大和をうまく使いこなせなかったと指摘しています。

そして現代のコロナウイルスへの政府や省庁の対応などとの共通点を指摘して警鐘をならしています。

せっかく日本人はモノづくりなど優れた能力を有しているのに枝葉にとらわれて全体を見失ってしまう。

目的と手段が乖離してしまうという問題を克服するためにこの本で見てきたように数字を手がかりにしてリアルな感触を大切にして歴史を見直す事が重要だと指摘しています。

自分も目的と手段を取り違えて手段が目的になっていることがよくあるので、この指摘にはハッとさせられました。

こんな風に歴史を具体的な数字を使って検証する本は歴史が好きな自分としては大変面白いのでどんどん出してほしいです。

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