とっく~ブログ 

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「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛  小坪遊 新潮新書

テレビ東京の人気番組「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」など、外来種の駆除や、減少してしまった生き物を増やすための放流事業、野生動物への餌やり、保護といった活動は一見人の善意による尊い活動のように思われるが、注意しないととんでもないことになりますよ、という大変興味深い本です。

「池の水」抜くのは誰のため?~暴走する生き物愛 (新潮新書)

あらすじ

・昆虫や魚を自然にはなしたり、木を植えたりする取り組みはそれ自体はよいのだが、専門家のアドバイスを受けるなど、科学的知見に基づいたやり方をしないとかえって自然を壊すことになるという話。

 

・野生動物の保護や餌やりが、人間の善意のつもりが後に悲劇的な結末を迎えることもあるという実例。

 

外来種イコール悪というわけではなく、地域の実情に合わせた取り組みが必要で、駆除ではなく、逆に保護したほうが良い場合もある。

 

・動物への愛が強すぎて、自分勝手な行動をとって、人に迷惑をかけたり、犯罪を犯すなど、ダークサイドに落ちてしまった人たちを紹介。

感想

僕は自然保護活動に関心があり、以前は地元の森林を保護する活動をしているボランティア団体に所属して、健全な森を作るために下草刈りや間伐、植林といったことをしていました。

 

そこで学んだのは森林を保護するためには森の生態系を理解し、この活動は何のためにやるのかしっかり認識すること、専門家のアドバイスに従って、科学的根拠に基づいて行うということです。

 

植林するにしても、その地域で生まれ育った木から取れた種から育てた木を植えることが重要で、ほかの地域から持ってきた木を植えることは遺伝子の汚染につながるということでした。

 

また、健全な森を作るためには、ときには皆伐して一から育てる場合もあるということです。

 

しかし、こういうことをやると、森の木をすべて切り払うなんてとんでもないと怒り出す人もいるそうで、なぜ、皆伐が必要なのか、丁寧に説明しなくてはいけないこともあるそうです。

 

この本でも自然保護に対する関心はあるけれど、知識が乏しかったり、間違った情報を信じていたりして、誤った行動をしてしまう人の実例を多く挙げています。

 

僕が一番印象に残ったのは、鹿児島県の奄美大島で絶滅の危機にひんしている野鳥やアマミノクロウサギを襲ったり、島の貴重な生態系を脅かすまでに増えてしまった野良猫の扱いをめぐる話です。

 

森で捕獲した野良猫を1週間保護して引き取ってくれる人を募り、残念ながらそういう人が現れなかった猫は安楽死させるという計画が雑誌に取り上げられたとたん、猫が可哀想だと大炎上して非難が殺到したということです。

 

しかし、沖縄のマングースや、小笠原諸島のグリーンアノールというトカゲは、同じように問題になっていて、捕獲した時点で殺処分されていても非難はされていません。

 

猫は国際自然保護連合という国際団体が選ぶ「世界の侵略的外来種ワースト100」というリストにも掲載されるほど世界各地で生態系に悪影響を与えている動物だということです。

 

猫だけが問題になるというのは、その愛くるしさから今や犬を抜いて人気のペットナンバーワンになっていることが大きな要因と思われます。

 

しかしこれは、同じように大切な命のはずなのに、人間から見てかわいい猫はだめで、可愛くないマングースやトカゲは、殺してもいいという大きな矛盾であり、人間のエゴを感じ、憤りを覚えました。

 

猫やマングースにはもちろん罪はなく、人間の勝手な都合で連れてこられて、生きるためにほかの生き物をとらえて食べているだけなのですが。

 

ほかにも、いい写真を撮りたさに野生動物に必要以上に接近してストレスを与えてしまう人や、金もうけのために珍しい生き物を密猟する人など、人間のエゴが自然に悪影響を与えている例や、逆に知らず知らずに法を犯してしまっているかもしれないことなど、とても勉強になりました。

 

著者が一番言いたいのは、身近なところにどんな自然があってどんな生き物とともに暮らしたいのか、その暮らしを守るためにどんなことをしていく必要があるのか考えることが大事だということです。

 

生物多様性保全し、豊かな生態系サービスを受けられる社会をどう作り、守り、引き継いでいくのか」今は仕事が忙しくて大した活動はできませんが、いつかまた、ライフワークとして取り組んでいきたいと思いました。