とっく~ブログ 

読んだ本の紹介をメインに、小説に出てきた聖地巡礼や、写真など

護られなかった者たちへ 中山七里 宝島社文庫

護られなかった者たちへ

あらすじ

東日本大震災から四年後、ようやく復興しつつある好景気に沸く仙台市で拘束したまま飢え苦しませ、餓死させるという残酷な他殺体が発見される。

 

その残酷な殺害方法から担当刑事の笘篠は怨恨の線で捜査する。

 

しかし被害者は人から恨まれるとは思えない聖人のような人物で、容疑者は一向に浮かばないまま二体目の餓死死体が発見される。

 

二人の共通点を探っていくと、ある福祉保険事務所で同じ時期に勤務していたという過去が判明。

 

この場所でで何があったのか。

感想

貧困と格差、生活保護の受給問題を扱った社会派ミステリーです。

 

「法律と歪んだ信条が護るに値しない者を護り、護らなければならない者を見て見ぬふりをしている」

 

受給申請をごまかして不正に受け取ったり、親族の受給しているお金を横からかすめ取っていくような不届き者がいる一方で、本当に需給を必要としている人が国や他人に迷惑をかけたくないとか、生活保護を受けることは恥だと考えて申請をためらっている。

 

また、申請書類の量が膨大かつ複雑で、それだけであきらめてしまう人も。

 

申請をなかなか受理してもらえず、どんどん困窮して追い詰められていく登場人物たちを見て、胸が締め付けられ、やり場のない怒りやむなしさを感じる場面もありました。

 

一方で、貧しいながらもみんなで助け合って笑いながらたくましく生きていく姿に人との繋がり、絆、愛といった希望を感じることができる場面もありました。

 

中山七里の作品は以前「連続殺人鬼カエル男」とその続編を読んだことがあるのですが、この作品はサイコサスペンスと呼べるような凄惨な内容でしたが、今回読んだ作品はそれらとは全く毛色が違っていて切なくて悲しくて泣ける作品でした。

 

ほかの作品もぜひ読んでみたいと思いました。

 

 

大人気中華ファンタジー小説シリーズの「後宮の烏」が完結

後宮の烏7 (集英社オレンジ文庫)

僕が大好きだった大人気の中華ファンタジー小説後宮の烏」が7巻をもって完結してしまいました。

 

後宮の烏」は2018年から続く、累計発行部数100万部を突破した、集英社オレンジ文庫から発行されている人気のシリーズです。

 

中国王朝を思わせる国の宮殿の奥深くで繰り広げられる荘厳な物語で、妃でありながら夜伽をしない特別な妃・烏妃の寿雪が主人公です。

 

不思議な術を使い、呪殺から失せ物探しまで、何でも引き受けてくれるという烏妃のもとに、ある依頼をするために時の皇帝である高峻が訪れたことによって封印されていた過去の歴史の闇の扉を開いてしまうというものです。

 

「烏妃は一人でいなければならない」という先代の言いつけを守って後宮の奥深くで世話役の老婆と二人だけで生活していた寿雪に、物語が進むにつれて、彼女にとって大切な仲間が次第に増えていきます。

 

先代の言いつけを破ってしまった罪悪感と、大切な仲間たちを守りたいという思いの間で葛藤する寿雪がいとおしくなり、最初は本のカバーイラストの美しさに惹かれて衝動買いしただけだったのですが作品自体にどんどんはまっていきました。

 

また、王朝の中で繰り広げられる凄惨な政争とそれに伴い次々に現れる幽鬼や呪いといったおどろおどろしい話が多い中、宮殿の庭園の木々やそこに訪れる野鳥たち、移ろいゆく季節といった自然の情景描写が美しく、そこにも魅力を感じていました。

 

自分の中で勝手に10巻まで続くのだろうと思っていたので、7巻を書店で手にとって帯に「ここに完結!」と書かれているのを見つけた時にはとてもショックでした。

 

しばらくは寿雪ロスに陥りそうですが、また新しい小説との出会いを楽しみにしたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

硝子の塔の殺人 知念実希人 実業之日本社

硝子の塔の殺人

2022年本屋大賞ノミネート作品です。

 

個人的にノミネート作品全作品読破を目指してきましたがようやく7作目です。

 

長野県の山奥の大富豪が建設した硝子館で次々に起こる密室殺人事件の謎にミステリーマニアにして男装の美人名探偵、碧月夜(あおいつきよ)が挑む!というミステリー作品です。

 

登場人物にミステリーマニアが何人も登場してくるので、作中にとにかくミステリー小説に関する知識がふんだんにちりばめられていて、ミステリー小説好きにはたまらないのではないでしょうか。

 

ミステリー小説の歴史や作家の知識、ジャンル分け、トリックの手法など、読むのは好きだけど、あまり詳しくない僕にはとても勉強になりました。

 

ストーリーも、年齢、職業、性格も様々な個性あふれる登場人物たちと、密室のトリック、読者への挑戦状、二転三転する事件の真相と、とにかくミステリーの王道という感じの作品で、はやく続きが読みたくて、仕事中も隙間時間を見つけては読んだりしていました。

 

そのため、500ページという長編でしたが、平日の2日間で読破することができました。

 

この作品の前に読んだ「残月記」が重たい作品で、なかなか読み進めることができず、休日を含んでも1週間かかったことを思うとえらい違いです。

 

それにしても、僕はそれほどミステリー好きとは言わないまでも、東野圭吾や、伊坂幸太郎湊かなえ宮部みゆきなど現代のミステリー作品もいろいろ読んできたので、それなりにミステリー小説については知っているつもりだったのですが、ミステリー好きの王道からはどうやら外れていたようです。

 

この小説の中で挙げられている海外の古典作品や名作、日本のミステリー作家の名作はほとんど読んでおらず、登場人物たちのミステリー談義にも全然ついて行けず、いまいちピンと来ないところもありました。

 

特に、綾辻行人の名作といわれ、その後のミステリー界に大きな影響を与えたという「十角館の殺人」がこの作品の中にたびたび引用されているのですが、読んだことがなく悔しく感じたので、ぜひ読んでみようと思いました。

 

この「十角館の殺人」が発売された1987年といえば僕は高校生で、この頃は赤川次郎の「三毛猫ホームズシリーズ」や「三姉妹探偵団シリーズ」を夢中で読んでいたのですが、この「硝子の塔の殺人」の中のミステリーオタクたちの口からは赤川次郎のあの字も出てきませんでした。

 

当時大ヒットし、発売するたびにベストセラーとなった流行作家のミステリー作品もミステリーマニアたちからすると本格派とは言えないのかもしれません。

 

昨年の本屋大賞ノミネート作品の中には本格ミステリーと呼べる作品は見当たりませんでしたが、今年はこの作品以外にも「六人の噓つきな大学生」と「黒牢城」という2作品がノミネートされていて、どれも面白かったので、どの作品も上位が期待できます。

 

特に「黒牢城」は直木賞をはじめ、いくつもの賞を受賞しているので、本屋大賞も期待できるのではないでしょうか。

 

僕の個人的ランキングでもこの「硝子の塔の殺人」は上位にランクインする作品となりましたが、本家の本屋大賞では果たして何位に入るのか楽しみです。

 

 

 

 

 

残月記 小田雅久仁 双葉社

残月記

4月6日に発表予定の2022年本屋大賞にノミネートされた作品です。

 

今年の本屋大賞ノミネート作品10作品を全部読破しようと個人的にキャンペーンを行っているのですが、やっと半分を超えて6作品目となりました。

目次とあらすじ

  1. そして月がふりかえる
  2. 月景石
  3. 残月記

月をモチーフにしたダークファンタジー3篇を収録した作品です。

 

それぞれに関連はなく、連作短編集ではありません。

 

1,そして月がふりかえる

苦労して大学の准教授となり、最近では本を執筆したり、テレビのコメンテーターを務めるなど、仕事は順風満帆。

プライベートでも、愛する妻と2人の子供にも恵まれ、幸せな日常を送っていた男の頭上に浮かんでいた満月が突然裏返り、その瞬間から彼の生活が一変するという恐ろしいストーリー。

 

2,月景石

若くして亡くなった叔母の形見の、不思議な模様の石を枕の下において眠ると、月世界に生きる自分の不思議な夢を見た女。

夢を見た直後から彼女の周囲でも不思議な出来事が起こり始め、ついに…。

 

3,残月記

独裁主義国家となった21世紀半ばの日本で、月昂者とよばれる、不治の病にかかった人々の過酷な運命を描く、ディストピア小説

感想

3篇とも、主人公や周りの登場人物たちがどんどん過酷な状況に追い込まれていくものばかりで、読むのがつらく、途中で読むのをやめようかと、何度も思いました。

 

とくに最初の作品である「そして月がふりかえる」は、現代の日本のごく普通の男の、本当に何気ない日常が、ある瞬間から一変するという作品で、胸が締め付けられるような気持になって、なかなかページを進められませんでした。

 

幸せな一人の男の日常を描きながらも、冒頭から、この男にこれから過酷な運命が待っていることを予感させる伏線がいくつもあって、初めから読むのがつらかったです。

 

そして、突然日常が一変する瞬間の描写が、静かな恐怖を誘って、戦慄を覚える恐怖となって、鳥肌が立ちました。

 

あとの二つは最初の作品に比べるとファンタジー色が強めの作品ですが、やはりダークな内容で、読むにはなかなかの忍耐が必要でした。

 

メインは表題作の3作目で、これだけで本の半分くらいのページ数なのですが、自分としては1作目が一番強烈な印象を残しました。

 

400ページを切る作品なので、ふつうはかかっても3日ほどで読んでしまうのですが、なかなか読む気になれず、結局読み切るのに1週間かかってしまいました。

 

それでも強く印象に残る作品となりました。

 

さて、この作品は果たして何位になるのか、結果が待ち遠しいです。

 

 

 

赤と青とエスキース 青山美智子 PHP研究所

赤と青とエスキース

僕は読書が大好きで、年間200冊近く読むのですが、斜陽産業といわれる出版界、そして、本屋さんや作家さんの応援も兼ねて、書籍はなるべく図書館ではなく、本屋さんで購入するようにしています(さすがにすべてというわけにはいきませんが)。

 

毎年発表される本屋大賞も、ノミネート作品10作品すべて購入して読むようにしています。

 

普段なかなか自分から手にとって読むことがない恋愛小説といったジャンルもあるので、良い刺激になっています。

 

今年ノミネートされた作品のうち、3作品は昨年の直木賞にノミネートされた作品として読了済みなのですが、それも含めてすでに4作品を読破し、この作品が5作目です。

 

この作品も恋愛小説に分類される作品なので、本屋大賞にノミネートされていなければおそらく手に取っていなかったと思いますが、心に残る作品になりそうです。

あらすじ

メルボルンに語学留学した女子大生(物語の伏線になっているので二人の名前は言えません)が現地在住の日本人学生と恋に落ちる。

 

彼女は、彼の友達で画家を志しているオーストラリア人のジャックからモデルを頼まれるが、日本へ帰国する日が近づいていた。

 

ジャックは下絵だけを描き、あとは一人で完成させることにする。

 

一方、出会った二人の恋の行方は?二人の人生の下絵は絵画として完成するのか。

 

エスキース(下絵)と名付けられた絵画と二人の男女の三十数年の物語。

感想

この作品の作者である青山美智子さんの作品を読んだのは昨年の本屋大賞第2位だった「お探し物は図書室まで」に続いて2作目ですが、同じ作家が書いたものとは思えないほどストーリーも、文章の印象も違っていて、技量の深さを感じました。

 

「お探し物は図書室まで」は公民館の図書室にいる、髪にかんざしを挿したクマのように大きな司書が悩みを抱えた来訪者たちに本を奨めて人生の気づきを与えるというハートフルな作品でしたが、主人公のキャラクターもあって少しコメディチックな印象もありました。

 

 

しかし、この作品は、透明感を感じる文章がとても印象的で心地よく、大人の恋愛を淡々と静かに描いているという印象を持ちました。

 

一見、登場人物も物語の年代もばらばらの連作短編集なのですが、それらが伏線にもなっていて、終盤には一気にそれらの伏線が回収されて真実がわかり、感動で鳥肌が立ちました。

 

人生を一枚の絵画に例えて、下絵から完成に向かって進んでいくところがとてもいいなと感じました。

 

 

エスキース

デッサンやスケッチなどと意味合いは似ているが、決定的に違うことがある。

それを元にして、本番の作品を必ず完成させる。描き手にその意思があるということ。

 

描いているうちに、自分でも予想できないことが起きるんだ。筆が勝手に動いたり、偶発的な芸術が生まれたり。思ったとおりにすらすらと描けたらそりゃあ気持ちいいだろうけど、どちらかというとそっちのほうがおもしろくて、絵を描くことがやめられない。たとえ完璧じゃなくても。

エスキースを描いた、画家を志すオーストラリア人のジャックが語ったこれらの言葉が人生を表しているようでとても印象に残りました。

 

この作品は本屋大賞で何位になるのか、4月6日の発表が待ち遠しいです。

 

 

六人の噓つきな大学生 浅倉秋成 角川書店

六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)

今年、2022年の本屋大賞ノミネート作品です。

 

作家さんや本屋さん、出版業界の応援も兼ねて、一昨年、昨年と2年続けて本屋大賞ノミネート作品はすべて読破しているので、今年も全作品を読破して自分なりのランキングと大賞を決めたいと思っています。

 

とはいえ、今年エントリーされた10作品のうち、「スモールワールズ」「同志少女よ敵を撃て」「黒牢城」の3作品は直木賞候補作品としてすでに読了済みなので、残りは7作品となります。

 

たしか7年連続で、女性作家の作品が大賞をとっていますが、今年はだれが大賞をとるのか、今からワクワクしています。

 

どの作品から読むか順番は決めていなかったのですが、何となくミステリーが読みたいと思ったので、この作品を手に取ってみました。

あらすじ

新進気鋭のIT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った六人の大学生。

 

一か月後に最高のチームを作り上げ、ディスカッションをし、結果次第では全員に内定が出るという。

 

六人は仲を深め合い、全員で内定を勝ち取ろうと誓い合うが、本番直前に課題が変更され「六人の中から一人の内定者を決める」ことに。

 

仲間だったはずの六人は一転して一つの椅子を奪い合うライバルとなる。

 

採用試験の当日、六通の封筒が発見され、その中にはそれぞれを弾劾した告発文と写真が同封されていた。

 

封筒を準備した犯人はだれなのか、その目的は?告発文に書かれていた彼らの罪とは?

感想

就活中の大学生たちの物語ということで、昔の自分に重ね合わせて、胃がキュッとなるのを感じながらも、作品のあちこちに伏線がちりばめられていて、早く先が読みたいと思い、夢中で一気に読んでしまいました。

 

都内の一流大学に通い、優秀で、でもそれだけじゃなく、やさしくて親切で思いやりもある、最高の仲間であると信じて疑わなかった六人は、まるで地球からは見ることができない月の裏側のように、他人には言えない裏の部分を隠したクズだった。

 

人はだれしも複数の顔を持っている。

 

いいところもあれば悪いところもある。

 

僕は、たいして内容の濃い人生を過ごしてきたわけではありませんが、50年生きてきて、たくさんの人と出会い、関わってきたので

 

「完全にいい人も、完全に悪い人もこの世にいない」

「一面だけを見て人を判断することほど、愚かなことはきっとないのだ」

 

という文章は特に心に刺さりました。

 

生きていれば誰しも経験するようなことを題材にしたストーリーは入り込みやすく、とてもよかったです。

 

僕的には今のところランキング上位に置きたいと思える作品でした。

 

余談ですが、この作品を読んで、昔読んだ、第140回直木賞を受賞し、後に映画化もされた、天童荒太の「悼む人」という作品を思い出しました。

 

 

この作品は、ろくでもない死に方をしたクズのような人たちが、実は生前にいいこともしていたという内容の話で、今でも心に残っています。

 

もう14年くらい前の作品ですが、こちらも久しぶりに読み返してみたくなりました。

 

 

パリピ孔明6 (原作)四葉タト (漫画)小川亮 講談社

パリピ孔明(6) (コミックDAYSコミックス)

特別に三国志が好きとか詳しいというわけでもないのですが、書店の漫画コーナーで平積みされているのを見つけて気になったので購入しました。

 

子供の頃にNHK人形劇三国志が放送されていて、森本レオの渋い声の諸葛孔明が活躍していたのを思い出しました。

あらすじ

五丈原の戦いのさなかに病死したはずの諸葛孔明が肉体的にも若返ってなぜか現代の東京渋谷に転生。

 

そこで知り合った歌手志望の女の子・英子の歌声に感動し、今度は英子の軍師となって彼女とともに天下を取ることを決意する。

 

6巻では兄妹愛をうたう新曲の完成のカギを求めて英子の実家のある京都へ。

 

そこには英子が歌手になることを猛反対して親子の縁を切った母親の翔子がいた。

 

なぜ翔子は英子が歌手になることを頑なに反対するのか?

 

そして、京都市内の商店街対抗演芸合戦で優勝して翔子を説得したい英子の前に立ちはだかる強力なライバルたち。

 

英子は孔明とともに新曲の完成のカギとなる「足りない何か」を見つけて手にすることができるのか?

 

はたして翔子を説得することができるのか?

感想

パリピ孔明」というタイトルからは想像できませんが自分の夢に真剣に向き合って努力する女の子のまじめなストーリーで、こっちも読んでいて気持ちが熱くさせられる漫画です。

 

また、音楽業界の裏話とか、そこに生きる人たちの栄枯盛衰の厳しい実態や、這い上がっていこうとする泥臭さ、裏切り、キズナといった話が散りばめられていて、泣いたり怒ったり感動したりと見ごたえのある内容です。

 

もちろん孔明が主人公なので三国志のエピソードや中国の故事なんかも出てきて勉強にもなります。

 

ちなみに僕のお気に入りのキャラクターは孔明がバイトをしているラウンジのオーナー小林です。

 

強面で一見チンピラのようですが三国志オタクで孔明と意気投合し、英子が歌手になることを心から応援して協力を惜しまない心優しい人間というところがギャップがあってとても好きです。

 

7巻以降どのような展開が待っているのか楽しみです!