とっく~ブログ 

読んだ本の紹介をメインに、小説に出てきた聖地巡礼や、写真など

田中家の三十二万石 岩井三四二 光文社

田中家の三十二万石

僕は戦国武将ゆかりの地を巡るのが好きであちこち行っているのですが、ここ最近まったく意図せずに田中吉政という戦国武将の名前を耳にするということが立て続けにあって気になっていたところに書店で田中吉政を主人公にした小説を見つけたので、これはもう運命だと思って購入して読んでみました。

あらすじ

近江の国浅井郡三川村に住む一介の農民に過ぎなかった16歳の久兵衛は、その日の食糧にも困るような生活から抜け出したいというただそれだけの理由で武士を志す。

 

戦場で敵将の首を取って手柄を立て、豊臣秀吉に仕え、関白豊臣秀次を第一の家老として支え、関ヶ原の戦いでは敵の大将である石田三成を捕縛するという大手柄を立てて最終的には筑後の国柳川三十二万石の大大名に。

 

豊臣秀吉と同じく農民から大名にのし上がった田中吉政が大出世を遂げたその先に見た景色とは?

感想

この作品を読んでつくづく感じたのは人は成長や出世をしていくためにはそれぞれの段階に応じてクリアすべき課題を認識して必要なスキルを身につけていかないと次のステップには上がれないということです。

 

田中吉政の場合はまず、敵の首を取って手柄を立てて石高を増やしてもらわなくてはいけませんから槍のスキルを磨いて強くならなくてはいけません。

 

そのために独自の練習方法を編み出して寝る間も惜しんで練習に励んで槍の技術を上達させて手柄を立てて石高を増やしてもらいました。

 

こうやって領地が増えると今度は統治能力を高めるために年貢の計算をするための算術を勉強したり、城や堤防を築くための土木技術の知識を学んだりします。

 

こうして統治能力が認められてさらに領地が増えると今度は官位も与えられてほかの大名や公家との付き合いが増えて古典や和歌、茶の湯などの教養も必要になってくるといった具合に上に上がるたびに次々に新しい課題をクリアしていかなければならないのです。

 

現代でも出世するためにはパソコンのスキルだけ身に着けてもダメで、ノルマをクリアしたり、営業成績で上位をとって上に上がると次は部下を使う能力や売り上げの数字を把握する能力を身につけて最終的には会社の経営能力を身につけなくてはいけないといったように。

 

田中吉政の周囲でもライバルたちがそれぞれのステップで課題がクリアできずに次々と脱落していって、計算もできず、教養も身に着けられない武士は戦でいくら敵の首をとっても大名にはなれないという現実があるようでした。

 

武力も教養もないただの農民だった田中吉政が人一倍努力して、先祖代々武士の家系で生まれて子供の頃から自然にこれらのスキルを学んできた人々を押しのけて三十二万石の大大名に出世したことはかなりすごいことなのでした。

 

ただ、あまりにも出世のことばかりに意識が偏りすぎたために家族をないがしろにしてしまい、吉政亡き後の田中家は…。

 

仕事と家庭のバランスという現代にも通じるテーマを戦国武将田中吉政から学びました。

まとめ

この数か月、戦国武将ゆかりの地巡りをしていて立て続けに田中吉政の名前を耳にしていて、たとえば関ケ原古戦場に行った時には徳川家康が戦いの最終盤に陣を張った場所のすぐ横が田中吉政の陣跡だったり、岡崎市徳川家康のゆかりの地を巡っているつもりが現在の岡崎城岡崎市の基礎を築いたのは田中吉政だということを知ったりしました。

 

また、刈谷市歴史博物館で企画展「豊臣秀次展」を見に行ってみれば展示物の三分の一は田中吉政に関するものだったりとやたらと田中吉政と縁があったので気になっていました。

 

彼に関する知識はせいぜい石田三成を捕縛した人ということくらいしか知らなかったのですが、実は滋賀県近江八幡市、愛知県の岡崎市、福岡県の柳川市という現代も残る三つの地方都市の基礎を築いた都市づくりの名人というすごい人なんだということを知ってまた一つ勉強になりました。