とっく~ブログ 

読んだ本の紹介をメインに、小説に出てきた聖地巡礼や、写真など

残月記 小田雅久仁 双葉社

残月記

4月6日に発表予定の2022年本屋大賞にノミネートされた作品です。

 

今年の本屋大賞ノミネート作品10作品を全部読破しようと個人的にキャンペーンを行っているのですが、やっと半分を超えて6作品目となりました。

目次とあらすじ

  1. そして月がふりかえる
  2. 月景石
  3. 残月記

月をモチーフにしたダークファンタジー3篇を収録した作品です。

 

それぞれに関連はなく、連作短編集ではありません。

 

1,そして月がふりかえる

苦労して大学の准教授となり、最近では本を執筆したり、テレビのコメンテーターを務めるなど、仕事は順風満帆。

プライベートでも、愛する妻と2人の子供にも恵まれ、幸せな日常を送っていた男の頭上に浮かんでいた満月が突然裏返り、その瞬間から彼の生活が一変するという恐ろしいストーリー。

 

2,月景石

若くして亡くなった叔母の形見の、不思議な模様の石を枕の下において眠ると、月世界に生きる自分の不思議な夢を見た女。

夢を見た直後から彼女の周囲でも不思議な出来事が起こり始め、ついに…。

 

3,残月記

独裁主義国家となった21世紀半ばの日本で、月昂者とよばれる、不治の病にかかった人々の過酷な運命を描く、ディストピア小説

感想

3篇とも、主人公や周りの登場人物たちがどんどん過酷な状況に追い込まれていくものばかりで、読むのがつらく、途中で読むのをやめようかと、何度も思いました。

 

とくに最初の作品である「そして月がふりかえる」は、現代の日本のごく普通の男の、本当に何気ない日常が、ある瞬間から一変するという作品で、胸が締め付けられるような気持になって、なかなかページを進められませんでした。

 

幸せな一人の男の日常を描きながらも、冒頭から、この男にこれから過酷な運命が待っていることを予感させる伏線がいくつもあって、初めから読むのがつらかったです。

 

そして、突然日常が一変する瞬間の描写が、静かな恐怖を誘って、戦慄を覚える恐怖となって、鳥肌が立ちました。

 

あとの二つは最初の作品に比べるとファンタジー色が強めの作品ですが、やはりダークな内容で、読むにはなかなかの忍耐が必要でした。

 

メインは表題作の3作目で、これだけで本の半分くらいのページ数なのですが、自分としては1作目が一番強烈な印象を残しました。

 

400ページを切る作品なので、ふつうはかかっても3日ほどで読んでしまうのですが、なかなか読む気になれず、結局読み切るのに1週間かかってしまいました。

 

それでも強く印象に残る作品となりました。

 

さて、この作品は果たして何位になるのか、結果が待ち遠しいです。

 

 

 

赤と青とエスキース 青山美智子 PHP研究所

赤と青とエスキース

僕は読書が大好きで、年間200冊近く読むのですが、斜陽産業といわれる出版界、そして、本屋さんや作家さんの応援も兼ねて、書籍はなるべく図書館ではなく、本屋さんで購入するようにしています(さすがにすべてというわけにはいきませんが)。

 

毎年発表される本屋大賞も、ノミネート作品10作品すべて購入して読むようにしています。

 

普段なかなか自分から手にとって読むことがない恋愛小説といったジャンルもあるので、良い刺激になっています。

 

今年ノミネートされた作品のうち、3作品は昨年の直木賞にノミネートされた作品として読了済みなのですが、それも含めてすでに4作品を読破し、この作品が5作目です。

 

この作品も恋愛小説に分類される作品なので、本屋大賞にノミネートされていなければおそらく手に取っていなかったと思いますが、心に残る作品になりそうです。

あらすじ

メルボルンに語学留学した女子大生(物語の伏線になっているので二人の名前は言えません)が現地在住の日本人学生と恋に落ちる。

 

彼女は、彼の友達で画家を志しているオーストラリア人のジャックからモデルを頼まれるが、日本へ帰国する日が近づいていた。

 

ジャックは下絵だけを描き、あとは一人で完成させることにする。

 

一方、出会った二人の恋の行方は?二人の人生の下絵は絵画として完成するのか。

 

エスキース(下絵)と名付けられた絵画と二人の男女の三十数年の物語。

感想

この作品の作者である青山美智子さんの作品を読んだのは昨年の本屋大賞第2位だった「お探し物は図書室まで」に続いて2作目ですが、同じ作家が書いたものとは思えないほどストーリーも、文章の印象も違っていて、技量の深さを感じました。

 

「お探し物は図書室まで」は公民館の図書室にいる、髪にかんざしを挿したクマのように大きな司書が悩みを抱えた来訪者たちに本を奨めて人生の気づきを与えるというハートフルな作品でしたが、主人公のキャラクターもあって少しコメディチックな印象もありました。

 

 

しかし、この作品は、透明感を感じる文章がとても印象的で心地よく、大人の恋愛を淡々と静かに描いているという印象を持ちました。

 

一見、登場人物も物語の年代もばらばらの連作短編集なのですが、それらが伏線にもなっていて、終盤には一気にそれらの伏線が回収されて真実がわかり、感動で鳥肌が立ちました。

 

人生を一枚の絵画に例えて、下絵から完成に向かって進んでいくところがとてもいいなと感じました。

 

 

エスキース

デッサンやスケッチなどと意味合いは似ているが、決定的に違うことがある。

それを元にして、本番の作品を必ず完成させる。描き手にその意思があるということ。

 

描いているうちに、自分でも予想できないことが起きるんだ。筆が勝手に動いたり、偶発的な芸術が生まれたり。思ったとおりにすらすらと描けたらそりゃあ気持ちいいだろうけど、どちらかというとそっちのほうがおもしろくて、絵を描くことがやめられない。たとえ完璧じゃなくても。

エスキースを描いた、画家を志すオーストラリア人のジャックが語ったこれらの言葉が人生を表しているようでとても印象に残りました。

 

この作品は本屋大賞で何位になるのか、4月6日の発表が待ち遠しいです。

 

 

六人の噓つきな大学生 浅倉秋成 角川書店

六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)

今年、2022年の本屋大賞ノミネート作品です。

 

作家さんや本屋さん、出版業界の応援も兼ねて、一昨年、昨年と2年続けて本屋大賞ノミネート作品はすべて読破しているので、今年も全作品を読破して自分なりのランキングと大賞を決めたいと思っています。

 

とはいえ、今年エントリーされた10作品のうち、「スモールワールズ」「同志少女よ敵を撃て」「黒牢城」の3作品は直木賞候補作品としてすでに読了済みなので、残りは7作品となります。

 

たしか7年連続で、女性作家の作品が大賞をとっていますが、今年はだれが大賞をとるのか、今からワクワクしています。

 

どの作品から読むか順番は決めていなかったのですが、何となくミステリーが読みたいと思ったので、この作品を手に取ってみました。

あらすじ

新進気鋭のIT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った六人の大学生。

 

一か月後に最高のチームを作り上げ、ディスカッションをし、結果次第では全員に内定が出るという。

 

六人は仲を深め合い、全員で内定を勝ち取ろうと誓い合うが、本番直前に課題が変更され「六人の中から一人の内定者を決める」ことに。

 

仲間だったはずの六人は一転して一つの椅子を奪い合うライバルとなる。

 

採用試験の当日、六通の封筒が発見され、その中にはそれぞれを弾劾した告発文と写真が同封されていた。

 

封筒を準備した犯人はだれなのか、その目的は?告発文に書かれていた彼らの罪とは?

感想

就活中の大学生たちの物語ということで、昔の自分に重ね合わせて、胃がキュッとなるのを感じながらも、作品のあちこちに伏線がちりばめられていて、早く先が読みたいと思い、夢中で一気に読んでしまいました。

 

都内の一流大学に通い、優秀で、でもそれだけじゃなく、やさしくて親切で思いやりもある、最高の仲間であると信じて疑わなかった六人は、まるで地球からは見ることができない月の裏側のように、他人には言えない裏の部分を隠したクズだった。

 

人はだれしも複数の顔を持っている。

 

いいところもあれば悪いところもある。

 

僕は、たいして内容の濃い人生を過ごしてきたわけではありませんが、50年生きてきて、たくさんの人と出会い、関わってきたので

 

「完全にいい人も、完全に悪い人もこの世にいない」

「一面だけを見て人を判断することほど、愚かなことはきっとないのだ」

 

という文章は特に心に刺さりました。

 

生きていれば誰しも経験するようなことを題材にしたストーリーは入り込みやすく、とてもよかったです。

 

僕的には今のところランキング上位に置きたいと思える作品でした。

 

余談ですが、この作品を読んで、昔読んだ、第140回直木賞を受賞し、後に映画化もされた、天童荒太の「悼む人」という作品を思い出しました。

 

 

この作品は、ろくでもない死に方をしたクズのような人たちが、実は生前にいいこともしていたという内容の話で、今でも心に残っています。

 

もう14年くらい前の作品ですが、こちらも久しぶりに読み返してみたくなりました。

 

 

パリピ孔明6 (原作)四葉タト (漫画)小川亮 講談社

パリピ孔明(6) (コミックDAYSコミックス)

特別に三国志が好きとか詳しいというわけでもないのですが、書店の漫画コーナーで平積みされているのを見つけて気になったので購入しました。

 

子供の頃にNHK人形劇三国志が放送されていて、森本レオの渋い声の諸葛孔明が活躍していたのを思い出しました。

あらすじ

五丈原の戦いのさなかに病死したはずの諸葛孔明が肉体的にも若返ってなぜか現代の東京渋谷に転生。

 

そこで知り合った歌手志望の女の子・英子の歌声に感動し、今度は英子の軍師となって彼女とともに天下を取ることを決意する。

 

6巻では兄妹愛をうたう新曲の完成のカギを求めて英子の実家のある京都へ。

 

そこには英子が歌手になることを猛反対して親子の縁を切った母親の翔子がいた。

 

なぜ翔子は英子が歌手になることを頑なに反対するのか?

 

そして、京都市内の商店街対抗演芸合戦で優勝して翔子を説得したい英子の前に立ちはだかる強力なライバルたち。

 

英子は孔明とともに新曲の完成のカギとなる「足りない何か」を見つけて手にすることができるのか?

 

はたして翔子を説得することができるのか?

感想

パリピ孔明」というタイトルからは想像できませんが自分の夢に真剣に向き合って努力する女の子のまじめなストーリーで、こっちも読んでいて気持ちが熱くさせられる漫画です。

 

また、音楽業界の裏話とか、そこに生きる人たちの栄枯盛衰の厳しい実態や、這い上がっていこうとする泥臭さ、裏切り、キズナといった話が散りばめられていて、泣いたり怒ったり感動したりと見ごたえのある内容です。

 

もちろん孔明が主人公なので三国志のエピソードや中国の故事なんかも出てきて勉強にもなります。

 

ちなみに僕のお気に入りのキャラクターは孔明がバイトをしているラウンジのオーナー小林です。

 

強面で一見チンピラのようですが三国志オタクで孔明と意気投合し、英子が歌手になることを心から応援して協力を惜しまない心優しい人間というところがギャップがあってとても好きです。

 

7巻以降どのような展開が待っているのか楽しみです!

 

 

ヨーロッパの都市伝説~歴史と伝承が息づく13話 片野優 須貝典子 祥伝社新書

ヨーロッパの都市伝説――歴史と伝承が息づく13話 (祥伝社新書)

もともと怖い都市伝説には大いに興味があるのですが、この本はタイトルからしてヨーロッパ各国に伝わる歴史や風習から生まれてきたものを扱っているようだったので、知的好奇心も満たしてくれそうだと思い購入しました。

 

また、読書の利点の一つはなかなか行けない外国を旅している気分にしてくれることだと思うのですが、大手を振って海外旅行に行けないこのご時世に都市伝説というテーマでヨーロッパの国々を旅している気分にもなれそうだと思いました。

内容

呪い、怪奇現象、事件、歴史の闇、伝承の五つのテーマに分けてヨーロッパの各国に伝わる都市伝説を紹介しています。

 

ポルターガイストドッペルゲンガー切り裂きジャックといった聞いたことがあるもの、自殺を誘発する曲、火事を招く絵、呪いの人形といった日本にもありそうな身の毛もよだつ怖い都市伝説も紹介されています。

 

また、怪僧ラスプーチンルートヴィヒ2世といった実在した歴史上の人物にまつわる不思議なエピソードといった知的好奇心をくすぐる話など、全部で13話を収録しています。

感想

歴史の長いヨーロッパには日本のようにたくさんの都市伝説があることを知りました。

 

特に歴史や伝統に基づいた都市伝説はその背景など知的好奇心も刺激するので大変興味深いです。

 

また、現代の大富豪イーロン・マスクが経営する会社「テスラ」の社名がセルビア出身の発明家の名前が由来であることや、ディズニーランドのシンデレラ城のモデルがドイツにあるお城であることなど、もしかしたら常識かもしれないけど恥ずかしながら初めて知りました。

 

新書にはこういう読みやすくて知的好奇心をくすぐる本がたくさんあるのでこれからもどんどん読んでいきたいと思います。

 

 

隻眼の少女 麻耶雄嵩 文春文庫

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何か月も積ん読していてほったらかしにしていたのですが、いつも食品の買い出しに行くショッピングモールに入っている書店に平積みされていて、表紙の水干姿の可憐な美少女のイラストに惹かれて思わずジャケット買いしてしまった本です。

 

また、帯に書かれていた「ここまで恐ろしいヒロインは他に存在しない」という文言も気になりました。

 

この可憐な美少女が恐ろしいのか?どんなふうに?

 

その真相は最後まで読むとわかるのですが、最後は戦慄しました。

あらすじ

千年以上昔、たびたび洪水を起こす龍を退治した不思議な力を持つ伝説の娘「スガル様」の子孫が治めてきた村で次期スガル様に指名されていた少女が猟奇的な方法で殺害される事件が発生。

 

たまたま村に滞在していた、左眼の翡翠で真実をすべて見透かすという美少女探偵の御陵みかげが事件の解明に挑むが彼女をあざ笑うかのように次々にスガル様候補の少女たちが殺されていく。

 

隻眼の少女御陵みかげはその翡翠の眼で真実にたどり着くことができるのか?

感想

伝説が息づき古い風習が残る山奥の山村で次々に起こる猟奇的な殺人事件という設定は横溝正史京極夏彦のミステリー作品を思い起こさせますが、事件に挑む主人公がまだ17歳の美少女探偵ということで、横溝正史京極夏彦の作品のような重苦しさやおどろおどろしさは感じませんでした。

 

それでも主人公の御陵みかげの深い洞察力と観察眼、論理的思考で徐々に事件の真実に迫っていくストーリーは早く先が読みたくなってサクサクとページをめくってしまいました。

 

そして最終盤に真実を知った時の衝撃や戦慄はかなりのものでした。

 

ミステリー小説は今までもたくさん読んできたのでいろんなパターンを見てきているので犯人は誰かとあれこれ予想はしていたのですが、この作品の結末は今までにないパターンでした。

 

ある意味ずるいというか禁じ手というか、なかなかのインパクトでした。

 

 

 

ここは今から倫理です。3  雨瀬シオリ 集英社

ここは今から倫理です。 3 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

今年2021年の初めにNHKでドラマ化され放送された作品の原作漫画です。

 

ドラマのほうは観ていないのですが、書店に平積みされているのを見つけて惹かれるものがあったので購入して読んでみました。

あらすじ

クールでイケメンの倫理教師・高柳が高校の授業を通して生徒たちが抱える問題に寄り添い語り掛ける、一話完結の連作短編の物語。

 

3巻ではヤクザの兄が犯した薬物犯罪に巻き込まれた生徒、全く話さない生徒、リストカットする生徒などが登場し、高校教師・高柳が倫理学や哲学の偉人たちの言葉を通して生徒たちに語り掛け、それぞれの生徒たちがそこから何を見出していくかを見つめる。

感想

特に大きな悩みや問題を抱えることなく無難に高校時代を過ごした自分には、ここに登場してくる生徒たちが持つ深刻な悩みにはいまいちピンとこないが、あのころ興味もなくわかりにくいと感じていた倫理の授業がこの漫画を通して生徒たちの抱える問題といった実例を見ていくことによってとても身近に感じます。

 

主人公の教師・高柳は基本的にクールでちょっと冷たい印象の男ですが、いざとなると大声をあげて生徒を𠮟ったり、優しく微笑みかけたり、時にはひどく動揺して慌てふためいたりと人間的な感情もちゃんと持ち合わせています。

 

なぜこんなにクールなのか、彼の家族とかの背景がまだ謎に包まれているので、過去のことなども含めて気になります。

 

このまま生徒たちに語り掛けていく内容が淡々と続くのか、それとも何か大きな変化があり、ガラッと展開が変わるのか注目していきたいです。

 

どうやら連載は最近終了したようですがコミックはまだすべては出ていないようなのでこれからも読み続けていきたいと思います。